今回は7月の夏秋イチゴ栽培の様子をご紹介します。
長野県にある私の実家は果樹園をしながら、今は少しだけ夏秋イチゴ栽培も行っています。
夏秋イチゴとは夏から秋にかけて収穫できる非常に珍しいイチゴのことです。
今回は7月に夏秋イチゴを育てている中で発生したトラブルと、収穫量の安定化のためにしている工夫を中心にご紹介します。
夏秋イチゴ栽培に興味がある方は是非最後までご覧ください。
萎れてしまった夏秋イチゴ
夏秋イチゴ栽培をしていて起こった大きな問題をご紹介します。
高設ベンチを見ると元気そうな株が並んでいます。
しかし、こちらの株はだらんと葉っぱがひっくり返って萎れてしまっています。
他にそういったものはありません。
皆さん、なぜここだけ萎れてしまっているのか原因を予想してみてください。
夏秋イチゴが萎れてしまった原因の予想①点滴チューブの目詰まり
一番最初に疑ったのは、ここだけ点滴チューブの穴が詰まって水が出なくなった可能性です。
夏秋イチゴは点滴チューブを使って育てています。
点滴チューブはよく目詰まりを起こします。
井戸水や農業用水などを使っていると、フィルターを何個か使っていても詰まってしまうことがよくあります。
ここでは水道水を使っていますが、水道水でも目詰まりを100%防げるわけでなく、どうしても点滴チューブの目詰まりは起きます。
なので、点滴チューブが目詰まりしたかもしれないと思いました。
夏秋イチゴが萎れてしまった原因の予想②病気
他の可能性は、病気です。
青枯病(あおがれびょう)や炭疽病(たんそびょう)など、突然萎れたり突然枯れる病気があります。
なので、ここだけ病気が発生したかもしれないと思いました。
イチゴの炭疽病についてはこちらの動画で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
イチゴが枯れる原因についてはこちらの動画で説明していますので、ぜひご覧ください。
夏秋イチゴが萎れてしまった原因
実は予想は両方外れており、全く別の問題が起きていました。
夏秋イチゴが萎れてしまった原因は、ハウスの中ではわからないので別の場所に移動します。
ここがビニールハウスに水を供給している水道の元栓です。
ひとつの蛇口を5つに分岐させ、さらにその内の1つを5つに分岐させているので、すごい状態になっています。
ビニールハウスが2棟あり、且つ1棟のビニールハウスの中でも水の系統を分けています。
普通の農家の方は電磁弁で系統を分けますが、電磁弁を使うのが面倒だったので市販の水道タイマーを使っています。
電磁弁とはタイマーとセットで使用して、水のオンオフを自動的に制御する装置のこと。
この水道タイマーが電磁弁代わりだと思ってください。
電磁弁が複数あるような感じです。
ハウスではイチゴ以外に野菜やブルーベリーなども育てているので、肥料の濃度やpHを変えるために分けています。
あとは単純に水の量や点滴チューブとドリップ式のものの違いなども関係しています。
さらにここから分岐させているので、本当に色々な系統に分けています。
夏秋イチゴが萎れてしまった原因は散水タイマーの電池切れ
今回ビニールハウスに水を供給している水道の元栓に来たのは、先ほどの夏秋イチゴ栽培に使っている点滴チューブに水を送っているのがこのラインだからです。
ここにあるタイマーを使って水を供給しています。
このタイマーを見てみましょう。
画像ではわかりづらいかもしれませんが、「交換」という文字が点滅しています。
この点滅は「電池交換をしてください」という意味です。
つまり、タイマーの乾電池の残量が無くなったのでタイマーが動いていません。
夏秋イチゴが萎れていた原因は散水タイマーの電池切れでした。
どうやら数日前から水が全く流れない状態になっていて、そのせいで萎れていたようです。
これが乾電池式の怖いところです。
乾電池の散水タイマーは電線や電気が通ってないところでも電磁弁みたいなものを使える点では非常に便利です。
しかし、乾電池のバッテリーが切れてしまう問題が起こります。
なので、定期的に確かめなければいけません。
前回ここに来たのは3週間くらい前で、その時に確認しましたが電池切れになってしまいました。
なので、週1回くらいの頻度で確認しないと「水が出ていると思ったら出ていなかった問題」が起きてしまいます。
こちらはすぐに乾電池を交換して、また使えるようにします。
なぜ一部の夏秋イチゴだけが萎れたのか?
先ほどの萎れた夏秋イチゴの様子を見て、疑問に思った方がいるかもしれません。
もし水が全部止まっていたとしたら、高設ベンチの夏秋イチゴが全部が萎れていないとおかしいですよね。
「1箇所だけ萎れて他が元気というのはおかしい。原因が別にあるのでは?」と思った方もいるはずです。
その点について説明します。
一部の夏秋イチゴだけが萎れた理由①使用している土の違い
萎れている部分を見てみましょう。
株元は土がカラカラに乾いていて、植物が水を吸えなくなり完全に萎れてしまっています。
他の株は萎れていないので、他の株の様子も見てみましょう。
ここは萎れてはいませんが、土がかなりカラカラの状態です。
他の場所も見てみましょう。
ここはまだ株が小さく、土はかなり湿っています。
夏秋イチゴが1箇所だけ萎れてしまった原因は、実はプランターごとに使っている土が違うからです。
培地の試験をしていて、かなり細かく土の種類が違います。
その中で株が萎れてしまっているプランターの土が、一番保水性が弱い土でした。
なので一番最初に水不足になって萎れるという現象が起きました。
他の土も同じようにカラカラの状態になっています。
ただ、萎れてしまった場所の土よりは保水性が強かったので葉っぱが萎れる症状が出ませんでした。
一部の夏秋イチゴだけが萎れた②株の成長の違い
先ほど紹介した土が湿っているプランターの株は葉っぱが小さいです。
なので、葉っぱからの蒸散量が少なくて根っこから水の吸収量が少ないです。
そういった理由から、土から奪われる水が少なく土の中に湿り気が残っていました。
萎れてしまった株は葉っぱが非常に大きいです。
なので、水の蒸散量や根っこからの吸収量が多くて、土の中の水分をどんどん使う状態です。
だから、こちらの方がより早く土が乾きました。
長々と説明しましたが、こんなトラブルが起きていました。
1回萎れてしまうと、根っこにも葉っぱにもダメージが残ってしまうので非常によくないです。
こういうことが起きないようにタイマーの乾電池をマメに交換した方がいいですね。
ここも若干萎れ始めています。
なので、すぐに水をあげて電池交換をします。
乾電池式のタイマーを使っている方はその点ご注意ください。
それから乾電池式ではない電磁弁でも電磁弁や制御盤の不具合やタイマーの不具合などで水が止まり、植物が枯れるまで気づかないということが起きます。
なので、皆さんご注意ください。
夏秋イチゴにアザミウマが寄生
他にもアザミウマが寄生したような症状が出ています。
この茎の部分には斑が出始めています。
炭疽病のような症状です。
ただこの品種は症状が出たと思ったら、その後回復して何事もなかったかのように元気になります。
なので意外と気にしなくてもいい場合もありますが、他の品種だったらすごい嫌ですよね。
ハウス全体に
- アブラムシ
- アザミウマ
- ハダニ
などの虫が結構出ていますが、ほとんど農薬の使用をしないで育てています。
うどんこ病や灰色かび病の殺菌剤の使用も一切していないし、アブラムシやハダニなどの殺虫剤や殺ダニ剤の使用もほぼしていません。
余っていた家庭菜園向けのスプレーボトルを少しかけたぐらいです。
一般的にイチゴ用に使われれている農薬は一切使ってないので、病気害虫が出るのは仕方ないと割り切っています。
今は結構大きめで形も綺麗な実がなっています。
ここではミツバチやマルハナバチなどの受粉昆虫を何も使っていませんが、ぼちぼちきれいに受粉できています。
この実もなかなかな大きさだと思います。
これも綺麗な形ですね。
完璧な三角形ではありませんが、これぐらいのサイズになっています。
アザミウマについてはこちらの動画で詳しく説明しています。
夏秋イチゴの収穫量を安定させるための工夫
夏秋イチゴを育てる場合、
- 春に植える
- 夏にたくさん収穫する
- 急にあまり取れなくなる
- 秋にまた少しだけ採る
というように、収穫量が多くなって減ってということが多いです。
そうすると経営上も作業者の肉体的な負担という意味でもあまりよくありません。
ここでは夏秋イチゴの収穫量を安定させるためにしている工夫をご紹介します。
夏秋イチゴの植える時期をずらす
今回、3月に苗を植えたベンチと6月に苗を植えたベンチ、他のベンチは4~5月に植えるというように、植える時期をかなりずらしました。
さらに1年前の春に植えつけた2年生株もあります。
一番古いもので16カ月前に植えた株、新しいものだと1か月前に植えた株、とこれだけ植えた時期をずらしています。
そうすると16カ月前に植えた株は春の間(5~6月)にたくさん収穫できて、その後少し収穫量が減っていきます。
3月に植えた株は5月ぐらいにはあまり採れませんが、大体6~7月ぐらいに収穫のピークがきて、その後採れなくなります。
4~6月というのが数ヶ月ずつずれて、それぞれの収穫量のピークが変わります。
なので、作業している人からすると大体同じ量を取り続けていることになります。
作業している人にとって、一気にたくさん採れ過ぎると肉体的にきついですよね。
また、経営面を考えると一気にたくさん採りすぎてしまったら販売先を探すのが大変です。
夏秋イチゴの値段は夏の間はそれほど高くありません。
値段が上がるのは秋なので、値段が高い秋にしっかり量を採ることが大切です。
でも、大体の夏秋イチゴは夏にたくさん採れて、秋の収穫量が減ります。
収穫量はたくさん採れて落ちてまた回復します。
また収穫のピークをずらすことができます。
夏秋イチゴの生育の違いを紹介
どれくらい生育の違いがあるのかをご紹介します。
3月に植えた株がこんな状態です。
こちらが6月に植えた株で、植えてから1ヶ月くらいしか経っていません。
そうするとこれだけ生育に違いが生まれ、収穫時期や収穫のピークもどんどんずれます。
元から植えた株を使って無仮植栽培
さらに追加で説明すると、こちらの株は通常の株とは違います。
株元を見て何か気づく点があるでしょうか?
プランターには元から植えた株がいくつかあります。
ランナーピンで固定されている株は苗を植えた株ではありません。
これは元から植えた株から出たランナーを固定して作った株です。
無仮植栽培(むかしょくさいばい)や育苗レス栽培、ランナー飛ばしなどと呼ばれます。
この様にして、現在では株数が2~2.5倍ぐらいまで増えています。
最初に植えた株は3月に植え付けたので6~7月ぐらいにピークを迎え、その後はあまり収穫できなくなってしまいます。
その時に収穫量の減少をなくすため、発生したランナーを固定して9月から実を収穫することを狙っています。
もちろん無仮植栽培にも
- 株間が非常に狭くなる
- 株数が一気に2倍ぐらいに増えるため管理作業が非常に大変
- 株を増やすのが禁止されている品種はこの方法を使うことができない
といったデメリットもあるので、その点はご注意ください。
これも収穫量のピークを分散化させるというのが狙いです。
新しい花が咲いて実がなっているものがありますよね。
赤くて収穫ができるような実もあります。
咲いたばかりの花もあります。
このように少しずつ収穫が続くというか、収穫できる実があったり新しく咲いたばかりの花があるように収穫が続くのが今回の狙いです。
今のところは理想の状態なので、この調子で11月まで続けられたらいいと思っています。
7カ月間だらだらと夏秋イチゴの収穫することを目指しています。
今説明したのは、1つのベンチの中だけで出来るだけ収穫量の波を無くすことでした。
プラスして植え付け時期を1カ月ずつずらしているので、さらに収穫時期がずれるわけですよね。
これだけ小さくて一番最初の花が7月に出てきた株もあります。
なので7月には収穫ができませんが、8~9月ぐらいにピークが来るという感じです。
列ごとに収穫量をずらしたり、1列の中でも収穫量をずらす工夫をしています。
【夏秋イチゴ】7月の生育!収穫量を安定化させるズラシ栽培といちごが萎れた原因【戦略を元に栽培方法を決めよう】のまとめ
今回は7月の夏秋イチゴ栽培の様子と発生したトラブル、収穫量を安定させるために行なっている工夫をご紹介しました。
最後に注意点です。
今回、私はここで収穫時期をずらす工夫を色々やっているとお伝えしましたが、このやり方が一番いいやり方というわけではありません。
あくまでも夏秋イチゴ栽培は私の実家の事業としてやっています。
実家の果樹園の経営があって、実家の労働力を考えた時にこのやり方がいいと思ってやっているということです。
なので
- 農園が違う
- 労働力が違う
- 販売先が違う
- 気候が違う
- 狙いが違う
そういった場合には今回紹介した方法が向いていないこともあり得ます。
まずは戦略をしっかりと考えて、それに合った方法を選ぶのが大事です。
イチゴ栽培は、何月に植えて何月に収穫ができて何月にこの作業をするというルーティーンが大体決まっていますよね。
そういった固定概念があると思いますが、戦略をしっかり考えると色々な工夫ができるというか、戦略次第では今までのルールから外れた方がいい場合もあるということをお伝えしたいと思いました。
ただ、あくまでも皆さん自身の農園の事情や販売や経営なども含めて戦略を選ばなければいけないので、戦略なしにこのやり方を真似したり他の方を真似するのはオススメしません。
今回ご紹介した内容は、こんな方法もあるというアイディアの提供にはなったかなと思います。
ぜひ皆さんも自分の農園の経営や販売、労働力や地域の気候などを全部含めて考えて、独自のやり方を考えていただければなと思います。
今回ご紹介した内容は、こちらの動画でご覧になれます。