家庭菜園でイチゴを育てている方にとって、人工授粉はとても大切です。
イチゴの葉っぱや花をうまく育てたとしても、最後の最後に受粉がうまくいかなかったら実ができません。
商業的なイチゴ農家の方は上手く受粉させるために、セイヨウミツバチかマルハナバチのいずれかを基本的に使ってます。
別の手段もありますが、だいたいどちらかのハチを使ってます。
セイヨウミツバチやマルハナバチが受粉できるのは、彼らが花の中央でぐるぐる回ってくれるからです。
「雌しべの根元から蜜が出るんじゃないか?」とモゾモゾ探してくれて、そのおかげで受粉ができます。
ただこれは家庭菜園ではなかなかできません。
家庭菜園でやる場合、自分の手で人工授粉をするのがオススメです。
綺麗なイチゴや大きなイチゴを作りたい場合は、その確率を上げるために今回ご紹介する人工授粉をしてみましょう!
イチゴの人工授粉について
なぜ人工授粉した方がいいのか、花が咲いたら必ず人工授粉が必要なのかを説明します。
綺麗なイチゴを作るためには人工授粉が重要
人工授粉をしなければ絶対にイチゴができないというわけではありません。
下記のように人工授粉しなくても実がなる場合があります。
- 風で受粉する
- 単純に人が触っただけの振動でもある程度は受粉する
- ハチやハエなどの野生の虫が受粉する
ただし確率としてはそんなに高くありません。
人工授粉した方がより綺麗なイチゴができる可能性が高くなります。
春の暖かい時に花が咲いたり、周りの自然が豊かなところで花が咲いた場合には、野生のハチが来てくれることもあります。
しかし、寒い時期に花が咲くと寒すぎてハチが動いていない場合があります。
また、住宅街やビル街などの都会で育てている場合には、周りにハチがいなかったりすることが多いです。
なので寒い時期に花が咲いた場合には人工授粉が必要です。
人工授粉せずに摘花する場合もある
寒い時期に花が咲いた場合、そのまま人工授粉させて実を取るという方法もありますし、花を摘んでしまう方法もあります。
これはケースバイケースです。
花を摘んだ方がいいのか人工授粉した方がいいのかはこちらの動画で解説しています。
人工授粉するタイミングはこちらの動画で解説しています。
実際のイチゴの花や実の様子
私は自宅でイチゴを育てています。
品種改良したり、特に目的もなく育てているイチゴもあります。
最近は花がどんどん咲いて実がなっています。
粒々でイチゴが受粉できているのかがわかる
赤い花びらが付いている実を見てください。
これは特に人工授粉をやらなかった実ですが、だいたいの小さな粒々が受粉できています。
粒々が大きい部分は受粉できていて、粒々の小さな部分は受粉できていません。
この粒々は一般的に「種」と呼ばれていて、植物学上は「果実」になります。
今回は粒々と統一させてください。
人工授粉をして全ての粒々を大きくすることが重要
粒々を大きくすることが重要です。
なぜかというと粒々が大きくなった部分は果肉が大きく膨らみますが、粒々が小さい部分は果肉が膨らまないからです。
全ての粒々が大きくなると、果肉が綺麗に膨らんで綺麗なイチゴになります。
粒々が大きかったり小さかったりすると膨らむ部分と膨らまない部分ができて、変な形になったり実が小さくなってしまいます。
この粒々が綺麗に全部大きくなることを目指しましょう。
そのために人工授粉をします。
イチゴの粒々の様子
この実の右側は粒々が大きくて左側の粒々が小さいのがわかるでしょうか?
左側の小さな粒々は受粉できなくて、右側の大きな粒々は受粉ができています。
この実を見てください。この実は悪い例です。
粒々が小さい部分と大きい部分があるのが分かるでしょうか?
粒々が小さい部分は果肉が膨らまないので密集しているように見えます。
粒々が大きい部分は果肉が膨らむので密集していないというか、間隔が広いように見えます。
人工授粉をしないとこのようになりやすいです。
このイチゴの症状はなんでしょう?
この実の状態がおかしいのがわかるでしょうか?
少し色がおかしいです。
この実の症状が何か考えてみてください。
この実の症状を「アザミウマという害虫の症状」とお答えした方、すばらしいです。
しかし、これはアザミウマの症状に非常に似ていますがアザミウマではありません。
これはホコリダニという害虫が発生したことによる症状です。
この症状を見てアザミウマと判断された方は間違ってはいますが、非常に良いと思います。
アザミウマとホコリダニの症状は似ていて、間違えやすという点を覚えておいてください。
アザミウマについてはこちらの動画で詳しく説明しています。
ホコリダニについてはこちらの動画で詳しく説明しています。
イチゴが受粉できる状態か見分けよう
今回は私が育てているイチゴの花を使って、受粉のタイミングを説明します。
人工授粉するタイミング
咲き始めたばかりの花は受粉するには早すぎます。
そのタイミングで人工授粉しても実はなりません。
雄しべと雌しべの受粉できるタイミングを見極める
雄しべと雌しべは分けて考えなければいけません。
この状態では雌しべは受粉する能力をちゃんと持っていますが、雄しべは受粉する能力を持っていません。
下の写真くらいの状態だと雄しべも雌しべも受粉させる能力を持っています。
受粉させる能力がある花の雄しべの花粉を、咲き始めたばかりの花の雌しべにつけると受粉します。
ただ、雄しべの花粉が出ていないのに人工授粉しても、雌しべに雄しべの花粉がつかないので意味がありません。
その点を気を付けて下さい。
下の写真の状態では雄しべも雌しべも機能しなくなっている可能性がありますが、ギリギリ使えるかもしれません。
イチゴの花の花びらが落ちきっていると人工授粉できない
花びらが落ちきっているものは、人工授粉させるタイミングとしては遅いです。
少なくとも花びらが付いている花を使ってください。
花びらが落ちきっていると人工授粉はできません。
受粉のタイミングは終わりました。
パッと見としてはこれぐらいの花が完全に咲ききっており、受粉するのにちょうどいいです。
花の中心を指で触ってみて、黄色い粉がつけば花粉が出ているということなので人工授粉に使えます。
雌しべ自体は十分で、あとは雄しべが必要という感じです。
花が咲く前でも雌しべは受粉能力を持っている
これまだ花が咲いていません。
赤い花でも白い花でも一緒です。
明日か明後日ぐらいには咲きそうです。
この状態だと雌しべは受粉能力を持っていますが、雄しべは受粉能力を持っていません。
なので品種改良する時は、こういう花を色々処理して品種改良に使います。
花が咲く前に品種改良の準備というのは必要です。
イチゴの人工授粉のやり方
受粉できる花が見分けられるようになったら、実際に人工授粉をしてみましょう。
イチゴの人工授粉には耳かきの「ぼんてん」を使う
実際に人工授粉をやってみます。
使う道具は100円ショップで買った耳かきです。
ふわふわな部分がついてるものです。
この「梵天(ぼんてん)」を使います。
まずは花粉が出ているのか調べます。
指で触ってみると指に黄色い粉がつきました。
これが花粉が出ているという証拠です。
そうしたら、耳かきのふわふわを使って優しく触ります。
こうするとふわふわに花粉がついて、そのふわふわから雌しべに花粉が移ります。
これを何日か行ってください。
花粉は何日か出ますし、雌しべも何日間か受粉できる期間があります。
受粉がうまくいくと数日後には花びらが落ちて、さらに数日経つと受粉します。
右から花、真ん中が花びらが落ちたもの、左が受粉して実になったものです。
この時にあまり強くやると雄しべが折れて使えなくなるので気をつけてください。
またツンツンになっている雌しべを傷つけると受粉できなくなったり、変な形になる場合があります。
力を入れてグリグリするのはやめて、優しい力加減で行ってください。
イチゴの受粉はやりすぎも良くない
商業的な農家の方は、セイヨウミツバチやマルハナバチを使うという話をしました。
しかし、ハチが多すぎたり働きすぎて何回も何回も受粉する作業をすると、雄しべが折れたり雌しべが傷ついて黒くなり実が変な形になる場合があります。
受粉はしなくてもダメですが、やりすぎもよくないです。
この点を気をつけてください。
花粉のついたぼんてんで複数の花に人工授粉する
人工授粉に使ったぼんてんには花粉が付いているので、1個の花だけで終わりにせずに複数の花に人工授粉を行ってください。
例えば今日この作業をやるとしたら全部の花に対してやります。
次の日もまた全部の花に対してやる、これを続けてください。
人工授粉をする時間帯
イチゴの花は朝9時や10時ぐらいに咲き始めることが多いです。
花は1日でダメになるわけではないので、次の日やその次の日ぐらいまでは花がちゃんと咲いて受粉できる状態になっています。
朝10時に人工授粉できない場合は、夕方6時にやっても問題ないです。
花粉が多い品種や少ない品種がありますが、あまり気にしなくていいです。
どの品種の花粉がついても、実の味は変わらない
よく「とちおとめの雌しべにに紅ほっぺの花粉がついたら味が変わりませんか?」と聞かれますが、花粉で味が変わることはないです。
その株がとちおとめだったら、どんな品種の花粉がついてもその実の味はとちおとめです。
これは間違いないです。
ただ、とちおとめの株に紅ほっぺの花粉が付いたとき、その粒々の遺伝子はとちおとめと紅ほっぺが混ざったものになるので、その粒々はとちおとめではありません。
基本的にイチゴは種から育てないので、気にしなくて大丈夫です。
その種を蒔いたら別の品種になります。
それは品種改良について解説した動画や再生栽培の動画などで詳しく紹介しているので、興味を持った方はこちらの動画を見てください。
花びらが落ちかけている花にも人工授粉する
花びらが落ちかけている花も人工授粉に使ってください。
完全に落ちたものはダメですが、落ちかけているくらいだったら花粉が使える可能性があります。
落ちかけているぐらいなら花粉はしっかり出ています。
心配なのは雌しべが受粉できる能力を持っているのかどうかぐらいです。
それは温度によって変わります。
絶対大丈夫と断言できませんが、一応やってみましょう。
灰色かび病を防ぐために花びらを落とす
イチゴを商業的にハウスで栽培している場合は、落ちかけの花びらをできるだけ落とすことがあります。
なぜかというと、灰色かび病という病気が発生しやすくなるからです。
ただ家庭菜園の方はそこまで気にしなくて大丈夫です。
家庭菜園の方は路地やプランターや花壇、庭や畑などで育てていると思うので、灰色かび病はそこまで多く出ません。
締め切ったビニールハウスで栽培していたり、トンネルで密封して栽培していると湿度が上がって灰色かび病が出やすいです。
灰色かび病は実が灰色のカビに覆われるという、名前のままの病気です。
そういったものが出やすくなるので、その場合は落ちかけている花びらを手でたたいたりして落としきってください。
触っても全然落ちない花びらは落とす必要はありません。
落ちそうな花びらは落としてあげてください。
そうすると灰色かび病が出にくくなります。
もちろん出る可能性はありますが、多少は発生を抑えることに貢献できるはずです。
人工授粉から一週間後
人工授粉から1週間ほど経って花が散りました。
人工授粉がうまくいったのか見てみましょう。
人工授粉の結果
見ての通り、あまりうまくいっていませんでした。
粒々が大きい部分と小さい部分があります。
これは変な形になると思います。
花粉がうまく出ていなかったのか、雌しべがうまく受粉しなかったのかどちらかです。
変な形だったイチゴがちょっと膨らだ後の様子です。
イチゴらしい形になっています。
大きな粒々の部分は膨らんでいて、小さな粒々の部分は膨らんでいません。
それから赤い色の粒々と緑色の粒々があります。
ただ色だけでは完全には判別できません。
赤い粒々でも緑色の粒々でも大きなものと小さなものがあります。
これは光の当たり具合や温度など色々なものが影響します。
水耕栽培で育てている「よつぼし」の様子
これは水耕栽培で育てている「よつぼし」です。
粒々が全体的に大きくなっており、人工授粉がうまくいきました。
粒々が全部が大きく膨らんでいて、膨らんでいない小さな粒々がありません。
なのでこの実はおそらくすごくきれいなイチゴになると思います。
収穫までは大体一か月弱ぐらいかかると思います。
まだまだ小さいですが、大きな実になりそうです。
黄色いものがイチゴの花粉です。
よつぼしは花粉の量が多かったので、人工授粉がうまくいったのだと思います。
こちらの花も紹介します。指で触って花粉がつけば、人工授粉ができます。
下の画像は、①の花が一番最初に咲いて、②の花が次に咲いて、③の花が後から咲いたという感じです。
人工授粉をした後に、その結果がいつわかるのか?
だいたい花が咲き終わって花びらが落ちてから3日〜1週間くらいで、粒々が大きくなるのか小さくなるのかがわかります。
肉眼でわかりにくいという方はポータブル顕微鏡や虫眼鏡などで見てください。
それで見れば、人工授粉が上手くいったかいってないかがわかります。
いつ収穫できるかは温度によって変わる
人工授粉をしてからだいたい1ヶ月弱~1ヶ月半後ぐらいで収穫できます。
これも温度によって変わります。
例えば4月や5月ぐらいの暖かい時期だと3~4週間ぐらいで収穫できます。
もう少し寒い時期、2月や3月に人工授粉すると1ヶ月半ぐらい(6~7週間)ぐらいの時間がかかります。
イチゴの人工授粉は温度管理も重要
受粉ができるかどうか決める要因は、人工授粉だけではありません。
もう一つ重要なのが温度です。
いくら人工授粉をきっちりやって雄しべの花粉が雌しべにちゃんと付いても、気温がいきなり-2度になると雌しべが死んでしまい機能しなくなってしまいます。
なので温度管理も重要です。
温度は高くても低くても良くない
寒い場合の話をしましたが、高い温度も良くありません。
35度ぐらいまで上がってしまうと、寒い場合と同じように雌しべが機能を果たせなくなって受粉できなくなります。
家庭菜園でイチゴを育てていると、春先に気温が下がり遅霜が来ることがことあります。
もしくは寒い時期なのに花が咲いてしまったりします。
例えば、2月上旬には花がもう咲いている方もいると思います。
露地で育てているのに花が出てきてしまうこともあります。
なぜかというと、最近のイチゴの品種は花芽分化をどんどん早くしたせいで、春になる前に花が出てくることがあります。
あとは住んでいる地域が暖かかったり、冬なのに春みたいな気候になる期間があります。
そういった期間が続くとイチゴが春だと勘違いして、花を咲かせてしまうことがあります。
そのまま春になれば人工授粉をして実が収穫できますが、気温がマイナスや0度、5度以下など冬の気候に逆戻りしてしまうと花が機能しなくなってしまいます。
なので注意が必要です。
5度以下にはできるだけさせないで0度以下には絶対にしない
寒い時期に花が咲いてしまった場合、室内に入れたり、畑で植えている場合はビニールのトンネルをして霜や寒さから守ってください。
具体的にいうと花を出来るだけ5度以下にさせたくありません。
0度以下になったらおそらく障害が出ます。
イチゴの実なら大丈夫ですが、花の状態だと良くありません。
寒さの目安は、5度以下にはできるだけしないで0度以下には絶対にしないことを意識してください。
温度が高い場合の対策
畑でイチゴを育てていて、トンネルを被せる方がいます。
早く収穫するためにトンネルで暖かくしたり、虫から守ったり、保温などの目的でビニールを被せている場合です。
その場合、春先は日射量が上がり日差しが強くなってトンネルの温度が上がりやすいです。
気をつけないと日中は40度くらいになります。
そうなると雌しべがダメージを受けます。
春先は夜は寒く朝昼は暑いので、夕方から夜はそのフィルムを被せて寒さから守り、昼間はフィルムを開けてトンネルの中が熱くならないようにしてください。
そうすれば夜の温度が6度や7度になり、昼間の温度が25度ぐらいになると思います。
イチゴの生育にも花の受粉にもそれぐらいの温度を保てると最高です。
それぐらいの温度を意識してみてください。
さらに良いポイントとしては、昼間トンネルを開けると野生のミツバチや他の虫がやってきたり風通しが良くなり、あまり人工授粉をしなくても受粉するようになります。
最近は小さい穴が開いているトンネルがあります。
イチゴを寒さから守れて、しかも日中に開けなくてもあまり気温が上がらないようになっています。
毎日の開け閉めが大変だという人はそれを使うのもいいかもしれません。
イチゴの人工授粉のポイント
ここまでのポイントおさらいしましょう。
- 人工授粉は花が咲いたらする
- できるだけ毎日何回も人工授粉する
- 人工授粉はあまり強くしすぎない
- 寒い時にはトンネルで守ってあげる、もしくは家の中に入れる
- 春先に日差しが強くなったら、昼間はトンネルを開ける
以上を意識してみてください。
家庭菜園のイチゴに実をつけるコツは人工授粉と温度管理のまとめ
今回はイチゴの人工授粉のやり方を説明しました。
人工授粉はとても大事です。
いくら葉っぱを元気に育てても、いくら大きな花を咲かせることができたとしても、最後の受粉がうまくいかないと今までの苦労が無駄になってしまいます。
人工授粉をしなくても軽く叩いたり、野生のミツバチや風だけでもある程度は受粉します。
でも、せっかくなら受粉の確率を高めてより綺麗なイチゴを作りたい方が多いのではないでしょうか。
そういう方はぜひ人工授粉してみてください。
人工授粉が面倒でとりあえずイチゴっぽい実がなればいいという方は、わざわざぼんてんを使って人工授粉しなくてもいいです。
ですが、せめて花を弄んであげるというか軽く叩くくらいのことはしてみてください。
今回の内容は、こちらの動画で詳しく説明しています。