今回はイチゴのウイルスフリー苗について紹介します。
私は過去にイチゴのウイルスフリー苗について何度か説明をしました。
そこでは培地の準備や切り出し方、その後の培養の仕方を解説しました。
ただ、茎頂培養(けいちょうばいよう)した植物を紹介していなかったので今回は
- ウイルスフリー苗のおさらい
- ウイルスフリー苗を使う理由
- ウイルスフリー苗の作り方
- イチゴ以外に培養した植物
などをご紹介します。
ウイルスフリー苗に興味がある方は、ぜひ最後までご覧ください。
ウイルスフリー苗の基本
こちらが私が作ったイチゴのウイルスフリー苗です。
ウイルスフリー苗とはウイルスやある特定の病気に感染していない苗のことです。
ウイスフリー苗はメリクロン苗とも呼ばれています。
ウイルスフリー苗を作るためには茎頂培養という作業を行います。
茎頂培養とは成長点(茎頂分裂組織)を切り出して培養することです。
切り出す組織の大きさは作物によって異なりますが、例えばイチゴの場合だと0.2~0.5mmくらいの大きさです。
ウイルスフリー苗を作る野菜は
- イチゴ
- サツマイモ
- ジャガイモ
- ナガイモ
- ワサビ
など色々な野菜や果物、花や植物に対してウイルスフリー苗を作る技術は使われています。
切り出し組織の大きさは0.2~0.5mmぐらいなので、肉眼ではほぼ点にしか見えません。
なので、必ず顕微鏡を使って作業を行います。
顕微鏡を使っても針の先端にちょこんと乗るぐらいの組織を切り出して、それを培養することで大きな普通のイチゴの苗を作る技術です。
イチゴの茎頂培養
次はイチゴにターゲットを絞って説明します。
イチゴの茎頂培養を行うと、炭そ病(たんそびょう)や萎黄病(いおうびょう)などの土壌伝染性の病気、それからウイルスに感染していない苗を作れます。
ただ、うどん粉病や灰色かび病などの病気は発生します。
イチゴの病気について詳しく知りたい方は、こちらの動画をご覧ください。
ウイルスフリー苗は値段が高い
ウイルスフリー苗は、1株約500~600円ぐらいの値段で販売されています。
普通の苗が約100~300円ぐらいなので、ウイルスフリー苗の値段はかなり高く設定されています。
ウイルスフリー苗も予防しなければ病気になる
ウイルスフリー苗は炭そ病や萎黄病、ウイルスに感染していませんが、絶対に感染しないわけではありません。
病気やウイルスの感染予防をしなかった場合、土壌伝染性の病気やウイルスに感染してしまいます。
ウイルスフリー苗は生殖成長よりも栄養成長の方が旺盛になりやすい
それから生殖成長よりも栄養成長の方が旺盛になりやすいという特徴があります。
生殖成長と栄養成長についてはトマトの動画でご紹介したので、こちらの動画をご覧ください。
生殖成長は花や実を大きくする成長、栄養成長は葉っぱや茎を作る成長です。
なので、どちらかというと花を作る方よりも葉っぱやランナーを作る方に養分を使ってしまう特徴があります。
簡単にイチゴの収穫量を比較して多い順で並べると、
- 普通の苗で健康的な苗で病気になっていない苗
- ウイルスフリー苗
- 色々な病気やウイルスに感染してその症状が発生している苗
という順番になります。
今の時点で苗に病気が全く出ていなければ、わざわざウイルスフリー苗を使う必要はありません。
しかし今発病していないからといって、来年以降も絶対に発病しないとは限りません。
もしかしたら来年病気が出てしまい、収穫量が一気に減ってしまう可能性もあります。
ただ、ウイルスフリー苗を使っていればある程度の収穫量は維持できるというようなものになります。
なので絶対にどんな人もウイルスフリー苗を使わなければいけない訳ではありません。
ウイルスフリー苗を使った方がいいのか、使わない方がいいのか、使うとしたらどう使うのかを考えないといけません。
イチゴのウイルスフリー苗の作り方
イチゴのウイルスフリー苗の作り方です。
まずは培地や器具の準備をします。
次に茎頂分裂組織の切り出しと置床(ちしょう)を行います。
その後、一次培養を行ってから二次培養を行います。
次に順化(じゅんか)という作業を行って、その後苗として植え付けます。
順化の手順はこちらの動画で説明しているので、気になる方は是非ご覧ください。
一番最初の準備から苗を植えるまでの期間は、どんなに短くても半年ぐらいはかかります。
商業的にウイルスフリー苗を販売しいる業者さんはこの期間を大体2年ぐらい取っています。
なので、今日発注すると実際に苗を受け取れるのは2年後ぐらいになります。
色々急げば半年~1年くらいでも作れますが、たくさん作ったり途中で検査等をしっかりしようと思うと、やはり2年くらいは期間が必要になります。
普通のイチゴの苗なら発注してすぐに受け取ったり、大量に発注する場合でも数ヶ月前に依頼しておけば受け取れることが多いと思います。※時期による
しかし、ウイルスフリー苗の場合はそういうわけにはいかないという点を注意してください。
元からその業者さんがたくさん在庫を抱えている場合は、発注後すぐに受け取れるとこともあります。※時期による
しかし、その業者さんが全く扱っていない品種をゼロからお願いする場合は大体2年ぐらいはかかります。
組織培養を勉強したい人におすすめの本
次に私のおすすめの本を紹介します。
すごく基本的な知識が載っている本です。
一冊は植物バイテクの実際という本で、もう一冊が植物バイテクの基礎知識という本です。
どちらも大澤勝次さんという方が著者として含まれているので、内容が若干被っている部分もあります。
でも、違う部分もあるのでこの両方があるとすごく助けになるし、組織培養の基本的なことを勉強できます。
イチゴのウイルスフリー苗のことをもっと勉強したい人は、ぜひこの2冊を読んでみてください。
私は大学と大学院の頃に植物の組織培養をやっていたので、その時からこの本を読んで実際に色んな実験に使っていました。
実際に茎頂培養したイチゴや他の植物
次に私が培養したイチゴの苗や他の植物を紹介します。
茎頂培養したイチゴのインビトロ苗
これが私が茎頂培養したイチゴです。
培養してから半年近く経っています。
元々0.5mmぐらいの大きさでしたが、今はこんなに大きくなりました。
瓶の中に寒天培地と呼ばれるものが入っています。
インビトロ苗ともいいます。
フタはずっと開けていないので完全に無菌状態で培養しています。
品種はとちおとめという品種を使っています。
少し改善するとしたら
- フタに空気穴を開ける
- 培地の組成(そせい)を工夫する
- 光が当たりやすいようする
ということをした方がいいと思っています。
こちらの動画でビニール袋と寒天培地を使った培養のやり方を紹介しているので、気になる方はぜひご覧ください。
私がビニール袋で培養した時、最初はうまく行きましたがその後あまりうまく育たなくなってしまいました。
なので、今はガラスの容器を使うようになりました。
茎頂培養した植物
次にこちらを紹介します。
これが何かわかるでしょうか?
この瓶の中に入っている植物、どこかで見覚えがありませんか?
これはウチワサボテンです。
100円ショップのダイソーで買ったサボテンから脇芽が発生していたので、脇芽を切断して殺菌処理をしてから無菌状態で培養しています。
脇芽の切断面から根っこが生えてきて、寒天培地の中に根っこを生やしてサボテンが元気に育っています。
ウチワサボテンの脇芽を寒天培地に刺して無菌状態で育てています。
このように植物の体の一部を切って無菌状態で育てることもできます。
イチゴの茎頂培養の場合は0.2~0.5mmmぐらいのかなり小さな細胞を切って中にいれますが、植物の脇芽を使って育てることもできます。
これぐらい大きく切った方が生存率が高まるので簡単にできます。
茎頂培養が難しくてできないという人は、脇芽を使うのがおすすめです。
無菌播種したイチゴの種
次に紹介するのはこちらです。
こちらはイチゴの種を播いたものです。
イチゴの種を殺菌処理して寒天培地の中に播きました。
無菌状態で播種することを無菌播種といいます。
このようにして色々な植物を育てることもできます。
組織培養はコンタミとの戦い
実は、イチゴの種を播いた瓶は失敗したものです。
瓶の中に白いものが発生しているのがわかるでしょうか?
これはカビです。
殺菌処理をしたつもりでしたが、うまくいかなかったようです。
瓶の中に菌が入ってしまい、中で増殖してしまいました。
こうなってしまうと中の植物は上手く育ちません。
このように雑菌が中に入ることをコンタミといいます。
組織培養はコンタミとの戦いと言っても過言ではありません。
できるだけこのコンタミ率を下げるためにエタノールが必要です。
エタノールで手や器具や植物を殺菌します。
植物の組織培養はエタノールが手に入らないとかなり難しいです。
植物を無菌状態で育てるのもとても面白いので、ぜひ皆さんもやってみてください。
いちごのウイルスフリー苗を茎頂培養で作る方法!炭そ病や疫病、萎黄病はないがデメリットものまとめ
今回はイチゴのウイルスフリー苗についてご紹介しました。
イチゴのウイルスフリー苗に関しては、家庭菜園でイチゴを育てている方にはあまり関係ない話かもしれません。
ただ、商業的にイチゴを育てている方にはかなり関係することだと思います。
また、無菌状態で植物を培養するのはとても面白いので、普通の家庭菜園に飽きてしまった方はぜひチャレンジしてみてください。
イチゴのウイルスフリー苗に関してはこちらの動画でも詳しく紹介しているのでぜひご覧ください。
今回ご紹介した内容はこちらの動画でご紹介しています。