今回は、四季成り性イチゴの特徴や育て方のポイントなどを紹介します。
家庭菜園をされている方だけでなく、いちご農家をされている方にも参考にしていただける内容です。
- 四季成り性イチゴってどんなイチゴ?
- 一季成り性と四季成り性の違いは?
- 四季成り性イチゴがどこで食べられるのか知りたい。
このような疑問や要望がある方は、ぜひ最後までお読みください。
四季成り性イチゴとは?
四季成り性イチゴとは、その名の通り、春夏秋冬の四つの季節で収穫ができるイチゴです。
しかし、一般的な日本人が想像するイチゴは、そのほとんどが一季成り性イチゴになります。
一季成り性イチゴもその名の通り、一つの季節で収穫ができるイチゴで、その季節は春になります。
なぜ春なのかというと、元々イチゴは日本の自然条件下で栽培すると、春に収穫される作物だからです。
その時期をどんどん早めていった結果、現在のように冬(11月下旬)から春(5月から6月)まで収穫ができるようになりました。
一季成り性と四季成り性の違い
一季成り性イチゴと四季成り性イチゴは、収穫時期こそ違いますが、どちらもイチゴということに変わりはなく、植物自体はほとんど同じです。
但し、一つだけ大きく違う点があります。
それは花ができる条件、つまり「花芽分化の条件」が違うということです。
ここではその条件の違いについて詳しく説明します。
一季成り性イチゴの花芽分化の条件
一季成り性イチゴは、5~10℃の温度帯の時には、日長時間に関わらず花芽分化します。
10~25℃の温度帯の時には、日長時間が短ければ短いほど花芽分化しやすくなります。
25℃以上の温度帯になると、どんなに日長時間が長くても花芽分化できません。
これらが、一般的に言われる一季成り性イチゴの花芽分化の条件です。
この花芽分化の条件から、一季成り性イチゴは冬から春にかけては収穫できますが、気温も高く日長時間も長い初夏から秋にかけては収穫できないということがわかります。
四季成り性イチゴの花芽分化の条件
四季成り性イチゴは、5~10℃の温度帯の時には、花芽分化はするものの花ができにくいという性質があります。
10~25℃の温度帯の時には、日長時間が長ければ長いほど花芽分化しやすくなります。
25℃以上の温度帯になると、日長時間が長ければ花芽分化しますが、日長時間が短いと花芽分化しません。
具体的に日長時間が何時間から花芽分化するのかについては、品種による差が大きいため一概には言えません。
それについては、品種ごとに限界日長時間(花芽分化するかしないかの日長時間の境界)が実験により判明しています。
下の図は前述した二種類のイチゴの花芽分化の条件を比較したものです。
こうして比較してみると、一季成り性イチゴと四季成り性イチゴの違いは、温度と日長時間という二つの花芽分化を左右する条件がほぼ真逆になっていることがわかります。
商業的な視点から見た四季成り性イチゴ
一季成り性イチゴは、その花芽分化の条件から、収穫時期が冬から春に限定されます。
そのため、一季成り性イチゴを栽培する農家の方は9月に定植を行い、11月下旬から5月から6月頃まで収穫をするというサイクルが一般的です。
一方、四季成り性イチゴを栽培する農家の方の場合は、3月から4月の春に定植を行い、6月頃から11月ぐらいまで収穫をするというサイクルになります。
下の図のように、日本のイチゴ業界では、冬(11月下旬から6月頃まで)に一季成り性イチゴを栽培する農園と、夏(6月から11月頃まで)に四季成り性イチゴを栽培する農園の大きく2つのタイプが存在しています。
では、日本にはこの2つのタイプの農園が同じくらいの割合で存在しているかというと、実際はそうではありません。
上のグラフのように、冬にイチゴを収穫する一季成り性イチゴを栽培する農家の割合が98%を占めており、夏にイチゴを収穫する四季成り性イチゴを栽培している農家は1~2%と言われています。
日本で四季成り性イチゴ自体を全く知らない人や、夏や秋にイチゴが採れることを聞いたことがないという人が多いのはそのためです。
家庭菜園の視点から見た四季成り性イチゴ
一般的な家庭菜園の場合、一季成り性イチゴの苗を秋に植えて春に収穫をし、夏に苗を増やしてそれをまた秋に植えるというサイクルになります。
一方で四季成り性イチゴを栽培する場合は、春または秋に苗を植えて、春夏秋に収穫を行い、夏の終わりか秋頃に苗を増やすというサイクルとなり、収穫期間が3つの季節にまたがるようになります。
四季成り性イチゴの特徴
ここまでの説明を聞いて、「春夏秋と3つの季節に収穫できるなら、絶対四季成り性イチゴを育てたい!」と考えた方もいるかもしれません。
確かに、その点だけに注目すると一季成り性イチゴよりも優れているように感じますが、四季成り性イチゴにはデメリットもあります。
ここではそのデメリットについて詳しく説明します。
デメリット1:温度が高い時期は糖度が低い
これは四季成り性イチゴに限ったことではないのですが、夏や秋に収穫したイチゴは、春に収穫したものよりも糖度が低くあまり美味しくありません。
これは、夏や秋のほうが気温が高いことがその要因なのですが、イチゴの特徴として、温度が高ければ高いほど糖度が低くなるという性質があります。
そのため、夏にも収穫できるのが四季成り性イチゴのメリットでもありますが、冬場に比べるとどうしても糖度が低くなってしまいます。
デメリット2:夏や秋は収穫量が少ない
春だけでなく、夏や秋にも収穫できるのが四季成り性イチゴの最大のメリットではありますが、実は夏や秋に収穫できるイチゴの量は春ほど多くはありません。
夏以降は、花が出る頻度や本数がかなり少なくなってしまうのがその要因です。
そのため、四季成り性といっても夏や秋も春と同じようにたくさんイチゴが収穫できるわけではありません。
デメリット3:ランナーが出にくい
四季成り性イチゴの特徴として、ランナーの発生が少ないということがあります。
そのため、苗を増やそうと思ってもなかなかランナーが出てこないので増やせない、といった問題が出てきます。
仮にうまくランナーが出たとしてもその本数はかなり少ないため、1株から2株くらいしか苗が採れないといった具合です。
デメリットへの対策は?
これら3つのデメリットは、実は四季成り性イチゴの品種改良によって既に改善されています。
しかし、改善された四季成り性品種は、商業的なプロの農家向けのみに販売されており、家庭菜園で栽培したいと思っても購入できないのが現状です。
消費者の視点から見た四季成り性イチゴ
「四季成り性イチゴなんて食べたことがない」と思っている方がたくさんいるかもしれませんが、それはおそらく間違いです。
実際にスーパーでイチゴが買えるのは11月下旬から6月頃までの期間で、一般的にはそこで一季成り性イチゴを購入して食べることができます。
ではスーパーにイチゴが置かれていない6月~10月の期間についてはどうでしょうか?
その期間でも、ケーキ屋さんなどに行けばイチゴのケーキやタルトなどが並んでいるはずです。
実はそのケーキやタルトに使用されているイチゴが四季成り性イチゴです。
「四季成り性イチゴを食べたことがない」と思っていても、夏や秋に誕生日ケーキやウエディングケーキを食べる機会があって、そこにイチゴが使われていたらそれも四季成り性イチゴということになります。
ケーキだけではなく、イチゴ大福など業務用や加工用などで使われているイチゴのほとんどは実は四季成り性イチゴです。
それでは、スーパーやコンビニなどで販売されている激安の苺ケーキに使われているイチゴはどうでしょうか?
実はこれらに使われているイチゴは四季成り性イチゴではなく、アメリカ産などの輸入イチゴが使われている場合が多いです。
その理由は、特に夏場はイチゴの値段が高いうえに、国産の四季成り性イチゴよりも輸入イチゴの値段のほうが圧倒的に安いからです。
季節によるイチゴの市場価格
一般的に夏から秋にかけて流通する四季成り性イチゴの市場価格は、キロ当たりおよそ2000円で取引されています。
一方、冬から春にかけて流通する一季成り性イチゴの市場価格は、キロ当たりおよそ1000円と言われています。
大雑把な数字ではありますが、これだけみると夏に四季成り性イチゴを販売するほうがかなり儲けが多いように見えます。
しかし、実際には夏場に収穫する四季成り性イチゴの実際の収穫量は、冬場の一季成り性イチゴの収穫量の半分程度しかないため、同じ作地面積から売り上げを計算すると、実質あまり変わらないという結果になります。
一季成り性イチゴを栽培する農家が多い理由
前述の通り、日本におけるイチゴ農家が栽培するイチゴの品種の割合は、約98%が一季成り性イチゴとなっています。
その最も大きな理由は、一季成り性と四季成り性ではマーケットサイズが圧倒的に違うからです。
例えば、冬場になると日本中のスーパーやケーキ屋さんなどいろいろな所でイチゴを扱うようになり、イチゴの需要がかなり増えます。
しかし、夏場になるとイチゴを扱うスーパーはかなり少なくなるため、販路を見つけるのが難しいのが現状です。
また、夏場でも収穫できるのが四季成り性イチゴの特徴ではあるものの、あまりにも夏の気温が高い地域では、四季成り性イチゴであっても収穫できないこともその要因の一つです。
そのため、九州や沖縄などで夏場に四季成り性イチゴを収穫しようと思うと、花ができるように温度をさげるための様々な工夫とコストが必要となり、不可能ではないですがあまり現実的ではないということになってしまいます。
そのような事情もあり、四季成り性イチゴの栽培は、北海道、東北、長野など夏でも涼しい気候の地域がメインとなっています。
このように、四季成り性イチゴを栽培できる地域が現実的には限られてしまうという点も、日本のプロの農家のほとんどが一季成り性を栽培する理由の一つです。
四季成り性イチゴを冬に育てることは可能?
四季成り性イチゴを冬に育てることは可能です。
実際に四季成り性イチゴを冬に栽培している事例もあります。
ただ、冬だけに絞って収穫するのではなく、本来の四季成り性の収穫時期である春夏秋に加えて、冬も収穫できるようにすることで、周年生産を実現した事例となっています。
一季成り性イチゴにもいろいろな種類がある
これまで、一季成り性と四季成り性の最大の違いは、日長時間や気温などによって花芽分化の条件が異なることだという説明をしました。
しかし、これはあくまで一般的な場合であって、一季成り性イチゴには実は以下の3つのタイプが存在します。
- 標準的なタイプ
- Day-neutral型
- 少し変わったタイプ
1については、既に説明した通りの標準的な一季成り性イチゴのタイプです。
2のDay-neutral型は、本来、日長時間と温度が花芽分化に影響を受けるはずの一季成り性イチゴでありながら、日長時間は関係なく温度の影響しか受けないタイプです。
3については、一季成り性でありながら、一定の条件を満たすと日長時間が長ければ長いほど花芽分化が促進されるという四季成り性の特徴を併せ持ったニュータイプです。
一季成り性といっても、このようにいろいろなタイプがあることが研究により報告されています。
四季成り性と一季成り性(少し変わったタイプ)の苗の様子
ここでは、実際にベランダで育てている四季成り性イチゴと、少し変わったタイプの一季成り性イチゴの苗の様子を紹介します。
四季成り性イチゴ(とちひとみ)の苗の様子
こちらは「とちひとみ」という栃木県で生まれた四季成り性イチゴの品種の苗の様子です。
6月中旬には花を咲かせており、7月中旬頃には収穫ができる見込みです。
四季成り性イチゴのため、7月や8月にも花を咲かせてくれます。
但し、このとちひとみという品種はあまり糖度が高くならないため、一般的にはあまり出回ってない品種になります。
少し変わったタイプの一季成り性(よつぼし)の苗の様子
こちらは「よつぼし」という品種の苗の様子で、少し変わったタイプの一季成り性のタイプになります。
よつぼしは種から育てることができるとても珍しい品種です。
下の写真がよつぼしの花です。
一季成り性にも関わらず、6月中旬に花を咲かせています。
順調にいくと7月には収穫できる見込みです。
一季成り性イチゴで7月に収穫できる例はとても珍しいです。
このよつぼしという品種は、ある一定の温度以上の条件の場合、日長時間が長ければ長いほど花芽分化するという四季成り性イチゴのような特徴を持っています。
この特徴を利用すれば、一季成り性イチゴなのに周年生産に利用できるかもしれません。
このように、よつぼしはおもしろい花芽分化の特徴があり、種子繁殖型のイチゴであったりと非常に珍しい品種でもあることから、次世代型の生産が可能なのではと注目しています。
四季成り性イチゴの特徴と育て方のまとめ
今回は四季成り性イチゴの特徴や育て方、一季成り性イチゴとの比較や市場での価格などについてくわしく解説しました。
「四季成り性イチゴなんか見たことない」と思っていたのに、実は既に食べたことがあったと気付いた方も多かったのではないでしょうか?
動画でも紹介していますので、ぜひご覧ください。